2004年12月19日、日曜日。阪神競馬場第5レース芝2000m。
1頭の競走馬がデビューした。
名前はディープインパクト。調教師は池江泰郎、鞍上には武豊。
馬体重は452kg。牡馬としては小柄である。
単勝オッズは1.1倍を示していた。
根拠は血統であり、騎手であり、CWで77.8という破格のタイムを叩き出した調教。
しかし、馬券購入者は、その馬がこれから起こすであろう何かを感じていたのかも知れない。
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ゲートが開いた。
ディープインパクトは良いスタートから、スムーズに5番手につけ、折り合っていた。
3コーナーから4コーナーへかけ番手を上げていき、直線に入る所で先頭に並びかける。
衝撃はそこからだった。
武豊の手綱はほとんど動かない。
正しく「他の馬が止まったかの様に」大外を突き抜けていく。
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過去にも衝撃の新馬戦はあった。
例えばアグネスタキオン
スキップをする様にゴールを突き抜けてく様は、誰しもが只者では無いと確信した。
例えばエルコンドルパサー
最高方から直線だけで7馬身ぶっちぎったこの馬に、世界を見た者がいただろう。
しかし、歴代のどの名馬とも違った。
「日本から世界最強馬が誕生する」
それ程の衝撃だった。
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上がり3ハロンは33.1。
これには目を疑った。
何かの間違いだろう?後で訂正されるんじゃないか。
新馬戦でそんな上がりを記録する馬なんているはずが無い。
その日の9レース、同じ2000m、1600万下。勝ち馬は最速の上がりを記録し、その数字は34.0。
その日の11レース、1600m、GU。同じく勝ち馬は最速の上がりを記録し、その数字は34.3。
ディープインパクトの33.1という数字は、その日が終わっても訂正されなかった。
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武豊は、レース後こう言った。
「ワクワクしますね。」
それは、競馬ファンの思いと同じだった。